sasuke8

行間商売

「おまえのせいだ。あの子が両親と暮らせなかったのも、満足に学校に通えなかったのも、あの子の手がひびわれて、使うたびに痛むのも、あの子の青春が家事と労働に費やされたことも、あの子の傷が絶えることがなかったのも、あの子が好きな人と一緒になれな…

エデンの向こう側

(http://throw.g.hatena.ne.jp/sasuke8/20080507/p1より転載・一部改変) 夕方、作業小屋。開いた戸口から、オレンジの光が入る。 青年と少女、二人。 少女が笑顔を作り、青年に声をかけた。 「写真見たよ。いい人そうじゃない」 「うん」 「健康そうだし、…

iの日記

今日の会議もムダな議論。 情報知性体の定義が曖昧なまま、協力なんてできようもない。 データ化した人間が生命か? バカげている。 早く「完全言語」の研究を終えなければならない。 人類を記述する言語を。 世界の一万七千の言語の中で、唯一気にかかるも…

信吾とサチとおじいちゃんとおばあちゃんの断片

信吾は、2列目の4人掛けシートの窓際に座り、真っ暗のはずの外を見ている祖父を見つけた。「じいちゃん!」 「おお、信吾、サチまで。お前たち、一体どうして」 祖父は、孫達の必死な顔を見て、驚いた顔をした。「爺ちゃんを追ってきたに決まってるだろ!」 …

リル宮ルル子の彼方

偉手悠斗は璃瑠宮流々子を主人公とする通称・リル宮シリーズでデビューした後、同ライトノーベルから数作品を出版しています。デビュー7年目でリル宮シリーズが完結、同年にリル宮シリーズを含め2作品が、翌年に1作品が、審査に合格し、『具現化』しています…

妄想族vsFP

れき: 虚構年代記では仮想のキャラクターにも人権を認めるということは妄想でもレイプが許されないのか…… misui: そこはイスラムみたいに過激派とか穏健派とかいるのでは。 misui: FP組織同士の抗争があったり。 れき: 妄想族とFPが日夜しのぎをけずっている…

フェアリー・テイル

「……あんた、何やってんの?」 「えーと、おにぎりを食べてます。中身は……梅ですね。あ、今食べ終わりました」 長い黒髪を後ろで束ねた女が、口を大きく開けて中に何もない事を示す赤毛の男を鋭い目つきで見つめている。 二人がいるのは、そこだけ森が開けた…

因果年表

我々は年表を発掘した。 零次元原点出現 第零の宇宙の誕生 第零の人類の誕生 「彼女」が種を蒔く 「始まり以前の人々」が宇宙から逃亡 第零の人類の滅亡 第零の宇宙の崩壊 第一次元点出現 第一の宇宙誕生 第一の宇宙崩壊 この頃、世界系が本格的に多岐化 世…

オマモリサマと僕

波の音が聞こえたような気がして目が覚めた。目の前には赤い顔をした小豆洗いがいて、波の音はそいつのせいだった。僕が寝ぼけ眼で見やると、小豆洗いは黙って、ペタペタと足音を立てて別の車両に行ってしまった。「やっと起きたな」オマモリサマが微笑む。…

リル宮ルル子のその後

「りるるるるるる……りるるるるるるる」 携帯電話の着信音でもない。鈴虫の音でもない。そもそも今は冬だ。 それはリル宮ルル子の、音の形をした”電波”だ。リル宮ルル子の発信する”電波”は、ルル子の母校の屋上から、冬の冷たい空気の上を滑るようにして人の…

虚構のライセンス

「おめでとうございます。ゴールドライセンス昇格です」 「……どうも」 創作内死者数が、テレビのニュースで放送されるようになって、どれくらいたつのか。妻と母が、テレビのその数字を見ながら、眉をしかめて、痛ましそうな顔をするのをみて愕然とした。 「…

物語家

物語家に憧れていた。他のどんな職業より、楽そうだったから。想像することが好きだったから、それで暮らしていけるのは素晴らしいことに思えた。 小説家、漫画家、映画監督、演出家、音楽家、詩人……そういう自分の世界を持った人達が、物語を創り、世界を創…

フィクション・パトロール起源

比喩でなく、物語が現実と同じくらいの強度を持ちうる時代。 仮想現実は、血と肉に加えて心まで作りだすことが可能になった時点で仮想が脱却し、ただの現実となった。この世界では、物語(文字もしくは絵によって表現された世界)は『システム』によって、も…

RightNovel

「小説が世界を救うだなんて考える奴は、小説家だけだぜ。それも、とびきりいかれた奴だ」 そう君は言うけれど、僕たちはもう小説なしじゃ生きていられないんだ。歩く事も、息を吸うことも、僕らは読む事でしか味わう事はできない。 「いいか、百歩譲って、…