膨張せる書なる書

 書なる書は膨張をはじめた。あるいは書なる書はこれまでも常に膨張し続けていたのかもしれぬが、書なる書の膨張が観察されたことによって晴れて書なる書は膨張する性質を明示的に与えられた。膨張する書なる書は書庫探検家らによって持ち運びやすいように細分化された。これが書なる書の書である。書なる書の書は当然書なる書の書の書を生むし、書なる書の書の書は当然書なる書の書の書の書を生むと共にまた別の書なる現れ方の書の書の書を生んだが、このようにしていたずらに階層を増やすことを書庫探検家たちは好まなかったから、結局理念的な総体としての書を書なる書と呼び、その断片集合である現実に観察可能な書を書なる書の書とし、これをさらに細分化して観察対象とした携帯用のそれを書なる書の書の書と呼ぶまでにとどめた。書なる書の書の書がまた異なる発想からの転回によって死せる死の死の死となるのは、これからまたしばらく後のことなのである。