ダンジョン攻略その1

「いい加減にしろ!ヴァレリアンヌ!」
 城内は静まった。これまで呼び捨てにしたものなどいなかったからだ。不遜である。しかしそれだけが他の文官武官を黙らせた理由ではない。
「とゆーわけなので、特に反対意見もないようなので、第3678回円卓会議を終わります」
「無視をするな!反対意見を言おうとしてたところだろうが。俺の話を聞け!」
「そこは『俺の歌を聴け!』じゃないかなー、マクロス7的に考えて」
 魔王のよく分からない発言に突っ込むモノはいなかった。そういったことは魔王の発言の中ではよくあることだと、出席者は分かっていたからだ。
 ちなみに今回は第3678回円卓会議だったが、その前は第21回帝国議会であり、その前はヤルタ会談であった。もはや会議ですらない。
 そうした魔王の言動全てが武官カラシニコフをいらだたせていた。
「だから俺の話を聞けといっているだろうが」
「だーかーらー、そこは俺の歌を聴けだとゆうとろうが。あ、「風の歌を聴け」でも悪くないな」
「もういい!ヴァレリアンヌ。なぜ貴様は地下ダンジョンにそう無関心なのだ。あれこそが我らの魔界の存在をおびやかす最大の原因だろうが」
 呼び捨ての次は貴様呼ばわりだったが、咎めるものはいなかった。カラシニコフの怒りが凄まじいというのも理由のひとつだが、文官も武官も心の底ではカラシニコフのいうことに程度の差はあるにせよ賛同していたからだ。また、その理由を魔王の口から聞きたい。これは出席者全員が思っていることだ。
「それはねー。昔僕ひとりで挑戦したんだけど、地下7階以上いけなかったんです。もうあんな怖い思いは嫌なのです。梨花ちゃんになでなでしてもらいたいくらいなのです」
「何の為に俺たち武官がいると思っている。何の為に厳しい調練をくぐり抜け、この席についていると思っている。闘いならば我らにまかせればいいではないか!ただ『戦え!』その一言をなぜこれほどまでに拒むのか」
カラシニコフ、おまえにその覚悟があるの?」
 魔王の声のトーンが落ちた。カラシニコフははじめてみる魔王の表情を真っ直ぐ見ながら答えた。
「・・・無論だ。・・・でなければこんな発言などしない」
「いいよ、行ってきても」
「今、なんと」
 そう言ったのは文官のシモ・ヘイヘだった。この会議に出席しているものの中で魔王をのぞいて最も高齢のものだった。シモ・ヘイヘが仕えて訳300年間、何度か地下ダンジョン攻略を主張するものがいた。しかし、魔王が直接指示を与えたのはこれがはじめてだった。
「僕に同じことを二度言わせる気?」
「いえ、滅相もございません」
「・・・以上、解散」
 魔王が会議室から離れると、途端に騒然となった。「陛下は何を考えておられる」「カラシニコフの無礼な態度が逆鱗に触れたのだ」「地下ダンジョン攻略か・・・」普段、会議中に発言しないものもこのときばかりは意見を口にした。
 カラシニコフが覇気をこめて言った。
「元々進言したのはこの俺だ。責任は俺がとる。今日よりダンジョン攻略の指揮は俺がとらせてもらう。無論、陛下がおおせられた通り覚悟のないものは無理につきあう必要はない。ただ、地下ダンジョンの存在は魔界に住むもの全ての恐怖の源だ。民のためにも力を貸してほしい。」
 結果として、文官を含め3分の2以上のものが賛成の意をあらわした。こうして、地下ダンジョン攻略がはじまった。