結末について

 過去のあらゆる脈絡と無関係に、気づくと私はそこにいた。

 今時珍しい七三分けで薄い眼鏡をかけたその人は、きっちりした背広を身につけて、いかにも仕事人間という感じだった。大型のプロジェクトを仕切るバリバリのビジネスマンというよりは、地道な訪問販売で化粧品を一ケースずつ売って回っていそうな雰囲気。自分から冗談を言うことはなさそうだけど、こちらの冗談には素直に笑ってくれる。そんな、人好きのする生真面目さのようなものを感じた。

 私と彼は、椅子に座って向かい合っている。豪奢ではないが、すっきりした気品を感じる木製の調度。机はない。部屋は真っ白なフローリングで、四方の壁には窓も扉もない。

「残念ながら」

 彼は言った。

「残念ながら、この街は三年後に滅びます。あなたは死ぬ」

 なぜか彼は、申し訳なさそうだった。まるで、それは自分のせいなのだと言うような表情だった。

「滅ぶ理由について、特に制限はありません。ミサイルの誤射でもいいし、局地的生物災害でもいい。一つの街が消える原因は人が死ぬ原因と比べて限られますが、それでも無数の可能性がある。それは問わない。ともかく、外部的に見て何の変哲もないと思われていたあなたの街は、その日消えます」

 この状況にあって、私には何の思考もなかった。思考する"よるべ"を持たなかったのだ。

「今日が、あなたの入学の日だ。三年経って、あなたは卒業する。そしてその数日後、この街は消え、あなたは死ぬ」

 そうなのか、と思う。水が下方に向かって流れるように、すっと受け入れ、納得する。

「その時まで、あなたはこのことを思い出さない。あなたは、三年間この街で生きる。あなたは、この街で死ぬ。あなたが主人公だ」

 そして、私はこのことを忘れる。