リプレイ『勇者神話』

伝説伝承

王宮の最上階にある王子の部屋を、神官が訪れた。扉を護衛していた女騎士は、無言で会釈して道を通す。神官は付き添いの女給を下がらせ、自ら名乗ってから部屋に入る。

神官:ご機嫌麗しく存じ上げます。
王子:なんだ!?
神官:「勇者神話」を語り継ぐ「伝説伝承」の儀式をお勤め下さるよう、お願いに参りました。
王子:いやだ!
神官:誠に恐縮ではございますが、そのようなわがままは通りません。王国に必要な儀式ですので。
王子:なぜだ?
神官:ご存じの通り、我が王国のいしずえである魔法文明は、民草に伝わる物語を、力の源としております。
王子:そうだ。
神官:勇者神話が継承され、新しい物語となって再生することによって、魔法が維持できるのです。
王子:「新しい酒は、新しい革袋に盛れ」……か。
神官:さすが、ご明察でございます。新しい国には、新しい物語。そして、新しい魔法が必要です。となりますと、国体の維持には、ぜひとも欠かせない国家行事でございます。
王子:おまえがやればいい。
神官:王子が国を継承するということは、建国の物語を継承するということと切り離せません。王子は次期国王候補というだけではなく、同時に魔法庁の最高司祭の候補でもあります。
王子:それは“かかし”にすぎない。
神官:恐れ多くも、実務的な魔法開発は、わたくしめがたまわった仕事でございます。しかしながら、建国物語となる『勇者神話』の新刊著者となられるのは、王子ですぞ。
王子:そんな話は、今までなかった。
神官:『勇者神話』の原典新刊そのものは、外部に公開されません。魔法庁の写本師らが、原典に独自の解釈や注釈を加えた写本群が、一般に流通します。
王子:回りくどいことだ。
神官:星の数ほどに増えた写本が、建国物語の謎をより一層深めます。それを巡って交わされる莫大な言葉は、夜空を照らす星明かりのように、魔力の源泉となります。そして、星々を元に形作られる“星座”こそ、一般に魔法と呼ばれているものなのです。
王子:おれはどうすればいい。
神官:伝承はふたりが口頭で語り合い、私が筆記する形で行われます。ですから、王子自ら王都に赴かれ、相方となる女性をお捜しください。
王子:おんな?
神官:王国の新しい物語を産み出し、王宮に新しい血をもたらす、姫となられるお方です。
王子:やる、やるぞ!
神官:……恐悦至極。
王子:城の外に、出られるしな。
神官:王子はなにぶん窮屈な思いをされておられますから、下々の暮らしぶりをご視察なさるのも良い機会でしょう。しかし、万が一の危険があってはなりませんので、護衛の者をひとり付けさせます。
王子:“お守り”つきか。
神官:ちょうどいま、外を守っている親衛隊の者が適任でしょうな。剣さばきは鋭く、口も堅く、義理堅く。必ずや護衛の任務を果たすことでしょう。
王子:良きにはからえ。
神官:かしこまりました。なにとぞ、お気を付けください。

それから、神官に呼ばれた女給が、部屋着から外出着へと王子が着替えるのを手伝った。王子は好奇心から、自らがまとう平民の装いについて、女給にいくつか質問している。支度を終えた王子は、女騎士を引き連れて、王都へと向かう。

勇者神話

  1. 太古の昔、地上に魔王が君臨していた
  2. 人々を救うために勇者が立ち上がった
  3. 勇者は旅の途中で、聖剣を手に入れた
  4. 勇者は仲間を集め、魔王城に向かった
  5. 魔王は勇者に倒されて、地獄へ帰った
  6. 勇者達の子孫が、現在の国王になった

「勇者神話」の写本は数多く流通し、物語の異種は多岐に渡る。だが、いずれの写本でも、6事項は共通している。

相方選考

(続く)