オマモリサマと僕

波の音が聞こえたような気がして目が覚めた。目の前には赤い顔をした小豆洗いがいて、波の音はそいつのせいだった。僕が寝ぼけ眼で見やると、小豆洗いは黙って、ペタペタと足音を立てて別の車両に行ってしまった。

「やっと起きたな」オマモリサマが微笑む。だが、直ぐにまた窓に視線を戻す。
一秒でも窓の外から目を離すのが惜しい、とオマモリサマの全身が言っていた。
オマモリサマは、眠る前と同じように、窓の外をずっと見ていた。
「何か視えますか」
百鬼夜行が走るのは夜だけだ。おまけに走っているのが随分な田舎で、灯りはほとんどなく、真っ暗だ。
「視える」
でもオマモリサマは窓の方を見たまま、答えた。
僕は微笑む。オマモリサマを連れてきてよかった。


「わしはオチコボレの座敷ワラシじゃ」
初めてオマモリサマに会ったとき、オマモリサマはそう言った。
感情を感じさせない切れ長の目と白い貌。僕は一瞬それに魅入られて、それからオマモリサマに耐え難い引力を感じる。
「じゃあ、僕と同じだ」
と僕は小さく答えた。


「何をニヤケておる」
いつの間にか列車はトンネルに入り、オマモリサマは僕の方を向いていた。
「いや、別に」
そのとき列車がトンネルを抜け、オマモリサマはまた直ぐに窓の方を向いた。
その姿が本当の子供のようで、僕はまた笑ってしまう。
「またニヤケておる」
オマモリサマが振り向かずに言った。