また皆でよってたかってあたしのこと馬鹿にしやがって魔界チュートリアル

「は?」

 は?

「はいはいおいでませおいでませ。魔界へようこそようこそこそこそ」

「は?」

「エコーしてみました」

「いや知らんけど。は?」

 は?

 はあ?

「はああ?」

「事情が呑み込めないのは分かりますけどちょっとくどいですね」

「いや、だって。はああああ?」

「満足しました?」

「分からんし。わけ分からんし。なにこれ。え? なにこれ。 なに? なに? なに?」

「つまり、あなたには過去も未来もありません。あなたは今この瞬間に、今この瞬間の状態として召喚されました。あらゆる由来や経験、しがらみと分離して、あなたはただあなたとしてここにいます。」

「いやだから分からんし」

「じゃあもっかい言うので呑み込んでください。あなたはこの瞬間にこの姿で生まれました。生後0時間です。生まれたという表現は不正確で、実際はいつかどこかの世界系の見知らぬあなたの断片を瞬間的に切り離したものがここに生じたとゆうことらしいんですが、その辺はまあ何とでも言えるでしょう」

「何が……」

 私は固まる。こいつの言葉を咀嚼する。文面をそのまま解釈する。その通りだった。私には記憶がまるでない。それはつまり過去がない。過去のない私が、それでもとりあえず私は私だろうという宙ぶらりんの曖昧な自己認識だけを持ってここにいる。たとえば、存在しない私の過去とは無関係に私は"こういう性格"らしいし、こういう風に言葉を発する。視覚的に言えば、髪は腰まで長く、霧が燃えるような薄い火の色。姿は細身で胸も細い、骨が浮き出ているくらいだが、とりあえずはおんなのからだ。車椅子の魔法使いという、取って付けたような陳腐な属性。名前もある。家名は失われたが自身の名は

「ザリス」

「はい、ザリス。魔界へようこそ」

 こいつ。こいつの名前も知っている。ちびだけど私に対する態度はでかい。したり顔の頑固のくせに、長いものには巻かれるタイプ。因縁がある。けれどその因縁は私たちの過去とは切り離されていて、それもまた理由を失い状況だけが存在する。

「魔王ヴァレリアンヌ」

「ワレリィでいいですよ」

「知らんがな」

「うけますね」

 何だこれ。超うける。