物語批判

 物語は危険だ。

 たとえば、少年が異世界に行き、冒険し、経験を積んで帰ってきたとしよう。そこに少年の成長を見い出すのは間違っていない。しかし、そのような事例が積み重なった時、私たちは「行く→成長する→帰る」との構図を見いだすようになる。つまり、「行く」と「帰る」が示されるだけで、私たちの頭は勝手に「成長する」という過程を補完してしまうのだ。それで、ひとつの物語が完結したという気になれる。

 しかし、本当だろうか? その少年は、行って、そして帰ってきた。その二点を示しただけで、「その少年は成長した」という結論に直結させることができるのか? この「示されていないこと」を幻視させることこそが物語の力であり、それは大いなる魅力であろうが、同時に詐術である。この構造を利用して、人の判断を誤らせたり、事実と異なる認識に誘導したりしたとき、物語はおぞましき邪悪の業となる。