百代佳代『ブリザードノート』

本書は作者の3作目の作品にあたり、壮大な世界観を持つ新シリーズの第1巻となっています。イラストには人気アニメーターのCAZANE氏が起用され、出版社の力の入れようから見てもメディアミックスを前提としたものだと思われます。

ストーリー

「常冬の狼」大陸の辺境出身の主人公クランは、14歳の誕生日に勅令によって王都の名門校に入学することになった。しかしクランが学園に足を踏み入れたその日、隣国グラヴァルガネの放った魔術攻撃により全土は荒廃し、対抗魔術に守られた王都だけが離れ小島のように孤立してしまう。実は学園は隣国の動きを察知した魔術者集団の最後の砦であり、次世代へとつなぐ「箱舟」であった。クランはそのことを知ってのぼせ上がる──「僕は選ばれたのだ!」──だが、あろうことかクランにはまったくもって魔術の才能がなかった。なぜ彼は学園に呼ばれたのか? それには一国の運命を左右する伝説の魔獣「ブリザード」の存在があった。

魅力に乏しい主人公

冴えない少年のシンデレラストーリーというか王道なファンタジーなのですが、物語のはじまりにおいて主人公クランは本当にただの子どもです。魔術が使えるわけでもなく体力に優れているわけでもなく、特筆すべき特徴がひとつもない普通の少年です。主人公がここまで魅力に乏しいのはちょっとめずらしいかもしれません。ただ、どういうことかクラン少年の周囲には魅力あるキャラクターたちが集い、彼を守ろうとします。クランは子ども特有の傲慢さを発揮し、そこだけ見ると本当にちやほやされているだけで、それほど面白い話ではないです。が、第2章が始まった途端、物語は一変します。

「ブリザード計画」

ある日、クランと親しくしていた少女エレアが、クランに打ち明けます。「わたし、もうすぐ死んじゃうんだ」──エレアが語った内容によれば、学園の人間は時が来れば順番に死ぬ運命にあって、その死とともに別の人間へと魔力が移る。そして最後の一人が残ったとき、魔力の集中した体に伝説の魔獣「ブリザード」が降臨する。いわば蠱毒のようなシステムで、魔獣ブリザードは隣国との戦いの最終兵器として期待されているとのこと。クランはまったくの無能力がゆえに魔力が宿りやすく、ある宰相がわざわざ手を回して辺境から呼び寄せてきたらしい。そのことを知っている少数の人間がクランを甘やかしながら、殺す絶好の機会を狙っていて……隠されていた真実を知ったクランは──クランは大慌てで学園を出ようとします(笑)。いやもうおまえさっきまでの調子こきっぷりは何だったんだと言いたいくらいで、さすがにエレアも彼の様子を見て激怒します(このときのエレアの10ページほど続く説教は絶品です)。かくして、世を儚んでいたエレアは、あまりにヘタレなクランをなんとか矯正して魔獣の器に仕立て上げようと奮起するのでした。泣ける話ですね。

歪んだボーイ・ミーツ・ガール

あとがきによれば、この物語は「ちょっと歪んだボーイ・ミーツ・ガール」で、よく読むと誰が味方で敵なのかという点ではミステリーの体裁を取っているようです。1巻の後半ではクランとエレアの二人を基本として仲間が増えるのですが、優しそうに見えた仲間が実は敵であったり、その逆もあり得るわけです。また、たとえ最終的にクランとエレアが残っても、どちらかが死ななければ魔獣の器にはなれません。物語の最初から二人の別れは如実に示されているのです。

続刊に期待

クランとエレアの行末はどうなるのか、果たして二人は生き残れるのか、王都の裏側はどう関わってくるのか、「ブリザード」とは……などなど、様々な引きが気になるところ。2巻は10月予定。続きが楽しみです。