『ブリザードノート』のルールと展開

百代佳代『ブリザードノート』

ももかよ先生の最新作を早速読んでみました。で、ちょいと気になった点を指摘するとともに、次巻以降の展開に軽く触れてみたいと思います。

ルールの存在

本作ではいくつかのルールが採用されています。

括弧内の作品はイメージを容易にするための便宜的なものです。他に近い作品はあると思うので各自好きな作品を入れてみてください。たとえば先の作品紹介では「蠱毒」とありましたね。

最後の一人まで

物語の舞台は基本的に学園です。学園ということは学年があり、そこからクラスがいくつかに分かれています。この物語が我々の世界と同じようなシステムを採用しているなら1クラス30人程度でしょうか(作品内の記述にもそうあります)。しかし、学園の最後の一人まで殺し合うということは、100人や200人の大規模な闘争が行われるということです。はたしてそんな大人数でバトロワができるものか? いや、できるとしても、それを作品として描けるのか? バトロワでは1クラスが対象でしたし、最近で言えば綾辻行人の『Another』も1クラスが舞台でした。闘争の場が学園全体という大規模になっていること。これがまず気になる点です。

移動する魔力

さて、死んだ人間の魔力は別の人間に移ります。誰に移るのか? 1巻では無能力な主人公クランに魔力が移る、つまり、魔力は低いところに流れていくということが書かれています。クランが特権的に魔力を集める能力を持っているわけではないことは明らかですし、今後、クランの所持する魔力が増えれば、その時点で一番魔力値が低い人間のもとに流れるでしょう。また、無能力なクランは魔力値0の駒として、他の人間から見ればある意味キラーカードとして生かされているのです。もしクランの魔力値が100になったとして、その時点で魔力値が99の人間は、クランを殺せばクランの魔力を自分のものにできます。ただしこれは狙いがあからさますぎてリスキーですね。この駆け引きが次項に関わってきます。

鍵を握る少女

書き忘れましたが魔力値を感知する技術は教師陣が独占しているようです。教師がゲームの影響下にあるのかどうかはまだよくわかりませんが、おそらく教師と結託して魔力値を知っている生徒はいるでしょう。クランの周囲に集まった数人はおそらくそうですし、ここから「宰相」の存在も窺い知れます。では、エレアは一体どんな存在なのか? とりあえずはクランというキラーカードに一番近い場所にいて、それでも完全に信用できるわけではないですよね。もしかするとエレアこそが教師や「宰相」と繋がっていて、クランを利用しようとしているのかもしれません。こういったドロドロした部分がももかよ先生の魅力だよなぁと個人的には考えています。

ルール変更?

以上ルールに沿ってざっと見てみました。ところで、2008年の文学プリマでももかよ先生が発表した『あまぞん☆あそしえいてっど』という作品があります。21世紀のネットワークを通じて陰陽バトルが繰り広げられる話で、いくつかの部分は『ブリザードノート』に継承されています(魔力の流動性、国家間の魔術バトルというところが特に)。『あまぞん☆あそしえいてっど』でもあるルールに沿って話が進み、しかし途中でそのルールが大幅に変更されています。というかキャラクターがルールをねじ曲げたという感じで、これは「ルールは変更できる=運命に抗う」という作者の思想に支えられているように感じます。おそらくこのルール変更は『ブリザードノート』においても試みられるでしょう。その結末がどういうものになるのか──ファンとして最後まで見守りたいです。