虚構のライセンス

「おめでとうございます。ゴールドライセンス昇格です」
「……どうも」
創作内死者数が、テレビのニュースで放送されるようになって、どれくらいたつのか。妻と母が、テレビのその数字を見ながら、眉をしかめて、痛ましそうな顔をするのをみて愕然とした。
「あなたのお話で人は死ぬの?」結婚前に妻から聞かれた事がある。私は児童向けの、子供達が活躍するようなものばかり書いていたので、死なないよと答えた。妻は、線が細く、直ぐに不安になって泣き出すような女性だったので、なるべく不安を与えないように注意する必要があった。しかし、今ではあれは、大事な意識のすれ違いを見逃してしまったのかもしれないと思っている。
創作内の殺人や強姦、重病や事故、または自然災害まで、作家は公的機関への届出が必要となる。人が死ぬに足る、然るべき理由がないと判断されなければ、殺人を描くことはできない。年々、その基準が厳しくなっていると、知り合いのミステリ作家は苦い顔で言った。果たして、人が死ぬに足る理由など、あるのだろうか? 
私は創作免許証を受け取り、直ぐに財布にしまった。作家の地位は確かに向上した。しかし、人々の、私たちに向ける眼差しは冷たくなっているように感じる。私は家に向かいながら、どこで間違えたのか、それを考え始めていた。

コメントその他

  • sasuke8
    • 虚構内人権尊重の法律ができて、FPができて、制度が定着して人々の意識が変化していったころ
    • この世界では、中の人が現実を一つと認識してようが、現実と虚構は曖昧になり、無限に続くので、矛盾した設定、異なる展開やら何やらは全て包括されると思いますので、気軽に妄想してください。