美少女地獄外道祭文/三角錐に包まれた脊椎の神への愛

(http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=76220 からの転載)


 実に遺憾なことながら、私の学校には変な人がいっぱいいます。「いっぱいいます」というのはまだしも控えめな表現で、生徒・職員の半数はその言動からして明らかに変人ですし、残りの人々も私を除いたことごとくが素質を秘めているように思えます。少年探偵が旅行に行くと必ず人死にが出るといいますが、ひとつの学校にアグニちゃんみたいな変人がグロス単位で詰め込まれている状況には、何者かの作為と陰謀を感じずにいられません。その事実に考えが及んだ時、都市伝説に噂されるあの最終解決的な秘密結社「新紀元秩序」が社会の裏で跳梁跋扈しているという類の与太話を信じざるをえなくなるのですが、冗談交じりにそういう話をした瞬間、本気で目の座ったアグニちゃんにコンマゼロ秒一切躊躇なしの強ビンタをもろにほっぺに食らわされ、この日常全てを一瞬で根こそぎに裏返してしまう冷たい<スイッチ>のようなものに触れたことを悟った私は、ここまで考えたこと、今アグニちゃんにひっぱたかれたこと、まだ生々しく頬に張りついているこの痺れが空気に触れて痛むこと、などの全てを即座に忘れてしまうことにしました。そ

「という展開はどうかしら」
「たずさちゃん」
「こういう話って、いちばん狂ってるのは書き手本人っていうのが定番よね。じゃああなたの立ち位置は、将来スパゲッティモンスターを産むと運命づけられた約束の聖母ということにして……」
「人の日記帳を勝手に覗くのはやめようよ……。あまつさえあることないこと書き込んでるし」
「日記はその内容を問わず、常に人に書かれ続けることこそを望んでいるのよ」
「さも意味ありげな顔して意味のないこと言うのもやめようよ……」
「あらひどい」

 日記に書かれた内容はたしかに半分正しくて、私の学校は本当に変人だらけです。まるで人ごとのような顔をしているたずさちゃんは、そんな害悪の大元の一人で、潜在的な邪悪さはアグニちゃんを凌ぐんじゃないかと思っています。アグニちゃんは脳と行動が直結したただの暗愚なので、やることはせいぜいチンピラの域を出ないのですが、たずさちゃんは持ち前のポーカーフェイスと計算深さで愉快犯的に悪事を働きます。悪事といっても自分から積極的に動くことはあまりなく、痴話喧嘩中のカップルにあっそういえばーと一言浮気の新情報を与えて火に油を注ぐなど、最低の労力で最も話がこじれる方向に事態を誘導するのが好きなようです。最近はアグニちゃんを焚きつけて悪事に走らせるようなパターンが多く、この間の幼稚園バス襲撃事件なども、裏で糸を引いていたのは実はたずさちゃんだったのではないかと疑っているのです。

「この日記を読んでいると、あなたが私たちのことをどう思っているかよく分かって面白いわね。まるで便所の糞虫をなじるような書きぶりよ」
「あるがままを書いてるつもりだけど……」
「私もそう思うわ。あなたの視点はとても公平よ」

 たずさちゃんは、いつだってそんな風に涼しげです。私は、ポーカーフェイスのまま「ふふふ」と笑う彼女を見るたび、ああやっぱりこの子たちは狂っていると思うのです。

「おーっす」
「あらアグニ」
「え? アグニちゃん?」

 唐突に、アグニちゃんの登場でした。描写を省いていましたが、ここは私の自室で、学校帰りのたずさちゃんが一人で遊びに来ていたという状況です。新たな来客があれば階下の両親がまず取り次ぐはずで、いきなりアグニちゃんがここに現れるという状況が理解できません。

「え? え?」
「アグニったら、今日は面白いものを連れているわね」
「今日は二人にあたしの彼氏を紹介しに来たんだ」
「彼氏って……はい?」

 アグニちゃんは、太くより合わされたカラフルな紐を握っていました。だらんと垂れたその紐の先は、黒く丸々としたものに繋がっています。

「え……なにそれ。犬……?」
「おまえ、犬とは失礼だな」
「落ち着いてシズカ。犬なら首があるはずだし、あんなゴムのような皮膚はしていないわ。あれは足と尻尾だけがあって、表面が湿気をもっているから、むしろ猫というべきよ」
「いや、猫っていうか、……なに? その、なに?」
「だからあたしの彼氏だっつーの」

 私はようやく気がつきました。絡まった大量の髪の毛がこんもりと、赤黒い塊を作っています。私のところまで臭いが漂ってきて、服や肌に張り付きます。

「あのさ、二人はあたしの親友だからさ……これからあたしと彼が愛し合うところを見ていてもらいたいんだ」
「あら、アグニったら……意外と可愛いのね」
「よせやい照れるぜ」

 たずさちゃんは、感じ入ったように目を潤ませています。それは彼女にしては珍しい、心からの祝福でした。

「たずさ……ありがとな」
「ふふ」
「え? え? ええ?」
「じゃあ行くぜ。せーのっ……」
「綺麗よ。アグニ、綺麗よ」
「あわあわわ」
「ごっ」
「ちょ」


 いつの間にか、日記帳にこんな文章が混ざり込んでいました。私には、全く身に覚えがありません。たしかに筆跡は私のものなのですが、そういえば前半でたずさちゃんに悪戯されたという部分だって、同様に私の筆跡で書かれているのです。あるいは彼女なら、筆跡模写くらいの芸当は朝飯前にできてしまうのかもしれません。 後日、本人たちに直接尋ねてみましたが、何のことか全く分からない様子でした。アグニちゃんの嘘なんて一発で見破れるので、今では大方たずさちゃんが悪戯したのだろうと思っています。それで話はすっかり収まりますし、三角錐の中心に育まれて正誤を明らかにするシュバイラヤナーアエンの新しい肋骨も、きっと同様の結論を出されているはずなのです。