パーツ

 胡坐をかいた膝の上に抱えられている。だいぶ涼しくなってきたのでくっついていても不快じゃない。
「髪伸びてきたね」
 と、わたしを膝の上にのせている彼女が言った。彼女と同じ方向、テレビの方向に向いていたわたしを、くるりと回転させて軽く持ち上げて、正面からわたしの顔を覗き込む。わたしはそういうのが苦手で曖昧に目をそらす。そらした先、彼女の右膝の向こうに、テレビのリモコンとわたしの右手が置いてある。
「前髪が、たまにうっとうしいかな」
 わたしがそう言うと、すっと彼女の手が額から左のこめかみと耳までをなぞった。それから彼女は、わたしを自分の膝の上に戻す。
「ちょっと左、寝かして」
「……このくらい?」
「うん」
 耳に彼女のふくらはぎの感触。テレビは面白くもつまんなくもないバラエティをやっている。わたしのパーツは今のところ頭と右手しかなくて、これから増えるかどうかは彼女の気持ち次第だ。ばらばらにならないように、首と右手の根元には金属の輪っかが嵌っていて、そこから伸びたワイヤーコードでお互いを繋いでいる。右手が遠いところにあるときは前髪をかきあげるのにも変な時間がかかる。彼女の足がコードを引っかけて、不意打ちで頭がごろんとなるときもある。まあそのくらいには不便で、でもそれほどは不便じゃない。