寝つけない夜の散歩

 真夜中にふと目が覚めて、そのまま寝つけなくて、私はのろのろと布団から這い出した。こんなときによくするように、黒ずくめの服に着替えて、夜の散歩に出かける。
 辺りを見渡しながら歩いて、夜の深いところを探す。日によって違うから、見つけるのにけっこう時間がかかるときがある。大通りではなく細い路地。街灯がなく、光がなく、ひどく闇の濃いところ。
 十分くらい歩いた先の、小さな神社横の路地でそれを見つけた。
 歩を進めて、濃い闇の中に入ると、すうっと体がその中に融ける。黒で覆っている体の部分が、闇と同じになる。説明しにくいその独特の感触、それがじんわりと心地よいのだ。うたた寝をしているときの感じに似ているかもしれない。
 黒ずくめの中で、首から上と右手だけは肌を出している。左手にも黒の手袋を嵌め、外に出しているのは頭と右手だけ。そうしないと融けなかったり、逆に融けたまま戻らなくなったりするのだそうだ。
 何故、頭と右手なのかはわからない。「唯一守らないといけないルール」として、同じように闇に融ける人に伝え聞いただけだった。
 夜の深いところを抜けると体が戻ってくる。その感触に、私はチーズフォンデュのことを思ったりもする。
 歩いたことと、一旦融けた感触で、体は心地よく疲れて、眠りに馴染んだ感じになる。チーズフォンデュのことを思ったせいで軽い空腹は覚えたけれど、それより早く帰って布団に寝転がりたいと思った。