物語家

物語家に憧れていた。他のどんな職業より、楽そうだったから。想像することが好きだったから、それで暮らしていけるのは素晴らしいことに思えた。


小説家、漫画家、映画監督、演出家、音楽家、詩人……そういう自分の世界を持った人達が、物語を創り、世界を創った。世界には夢が溢れた。そのころ世界中を覆っていた暗雲(不景気や戦争や資源の枯渇や人口爆発)が晴れたように見えた。なぜなら、暗雲が覆うべき空が無限に広くなったからだ。


それでも、やはり人間が創ったものには限界がある。そもそも終わりの無いものなんてないのだろう。世界は世界に飢えはじめる。少しずつ始まった物語家の減少。完成された世界の中で、物語家は物語を紡がなくなり、焦った政府が造った物語家に対する物語作成義務の法律は完全に裏目にでた。反発した物語家が、物語るのをやめ、それに従った物語家が無理矢理に作った物語は、独立した世界を形成することができなかった。
現実と言う物語は、最悪の形で終焉を迎えようとしていた。それでも、世界は物語を欲していた。人々の安息の地は、既に物語の中にしかなかったからだ。


そんな人類が最後にとった手段は、余りにも、壮大で、稚拙で、考えのないものだった。全人類を虚構世界に移住させる。
その為に、人類が半永久的に存在できる強度を持った世界が必要だった。世界中の物語家、科学者による最初で最後の大物語の創作がはじまった。全人類を永遠に騙せるような物語を創らなければならない、人類を生き延びさせるために。
そうして僕は、まるでピラミッドを造るためにかき集められた民のような気分で、ずっと憧れていた物語家になった。



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