幕間とかいてまくあいと読む

 誰も読めない書物らしき紙束を集めた図書館だの、宇宙のデバグ用コンソールと目される完全剛体だの、入る度に形の変わる地下迷宮だの、全く盛り上がらない残念名所にさんざん引っ張り回された挙げ句、私は魔王城の最上層らしき貧乏くさい小部屋に連れてこられた。みみっちい字で「まおう」と書かれた札のかかった扉を開けると、まず目に入ったのがこたつとみかん。両隣にはベッドと机と異形な機械。机の周りには等身大の姿見やら物騒な斧立てやらが並び、その周りの壁を本棚が囲んでいる。カーテンやらなにやら薄緑の色調で涼しい雰囲気を出そうとしているが、くすんだその色はどうにも汚濁の斑点に見える。絨毯の床に転がったトウフのぬいぐるみは顔を苦悶に歪ませており、見るものをなんだか嫌な気分にさせた。

 私はたぶん、そのぬいぐるみと似たような嫌な感じの半笑いになっていたと思う。

「さて、じゃあ今日はそろそろ休みましょう」

「待て」

「あーでも寝るとこないですよね。とりあえずお布団敷くんで、後でもらってきます。そうなるとこたつちょっと邪魔ですねえ」

「待てやこら」

 ここから先、とぼけてシラ切り通そうとする魔王にきれた私がそこの斧振り回し、車椅子ぶんぶんいわせてどっちゃんずっちゃん大立ち回りした顛末を語る気はない。このような茶番、筆を遊ばせるためだけの予定調和に逐一付きあうことに対して、私はほとほと厭気が差しているのだ。結論、当分の間、私はこの部屋で魔王と相部屋ということになった。怖気の走る事態だが、この魔王城、この魔界のどこに居を構えたところでどうせろくなことにはなるまい。私は観念し、もう勝手にしさらせと布団に潜り込んだ。魔王のくせにろくな布団も持ってやがらぬのは最早予定調和であり、批判するのも馬鹿馬鹿しい。

 寝際の私に、魔王が一冊のノートを投げて寄こす。魔王はそれを、神話のひとつの発端と言った。何のことはない、まっさらなノートである。そこには私の筆跡でこうあった。

○月×日
日記を書こうと思ったのに日付が分からない

「つまり、世界は伏線に満ちているわけです」

 またこれだ。くたばれ。